- 解説
- 大室186号墳は大室谷の中ほど、標高441m 付近に位置し、「大室古墳群 大室谷支群 ムジナゴーロ単位支群」と呼ばれる古墳グループに属しています。また、史跡地内に位置し、「史跡大室古墳群遺構復元整備ゾーン」を構成する古墳の1基となります。発掘調査は1989年(平成元年)から1990年(平成2年)にかけて、明治大学文学部考古学研究室により実施されています。
墳丘は直径13.5m (石室主軸方向)× 12.5m を測る円墳で、墳丘外周に石積みを巡らし、石を多量に含んだ盛土を使用した土石混合墳丘です。墳丘の高さは2.5m を測りますが、横穴式石室の天井石がすべて露出しているなど、墳丘盛土の流出が著しく、本来はもっと高かったと推定されます。
埋葬施設は南西側に開口した両袖形横穴式石室です。玄室(げんしつ)、羨道(せんどう)ともによく残リ、石室全長8.6m ・玄室長4.5m ・玄室高1.85m・羨道長4.1m ・羨道高1.3m をそれぞれ測ります。玄室奥壁は多段積みで、玄室中央部が膨らむ胴張り形をしています。玄室と羨道を区分する袖部は両側壁から袖石が突出した両袖形で、床には框石(かまちいし)が設置されています。玄室の床面はこの框石を介して羨道よりも一段低く、川原石と割石による礫敷きとなります。羨道は袖部で幅1.15m、開口部で幅1.0mと、ほぼ幅を減じることなく玄室から真っ直ぐに延び、開口部とのほぼ中間点に框石が、開口部には平石による仕切石が設置されています。この仕切石の内側から閉塞石が確認されています。
遺物は、墳丘上から土器(土師器・須恵器)、横穴式石室内から土器(土師器・須恵器)、鉄刀(破片・刀装具)、鉄鏃(2)、刀子(破片)、馬具(鐙(あぶみ)吊るし金具)、小札甲(こざねよろい)、耳環(2)、玉類(勾玉(1)・切子玉(2)・丸玉(2)・ガラス小玉(83))が出土しています。須恵器は大甕が主体で、出土位置から横穴式石室羨道部と横穴式石室開口部の向かって左側(西側)の墳丘裾部で使用された可能性が考えられます。また、墳丘の各所からは40個体に及ぶ土師器高杯が出土していて、大室古墳群でみられる土師器多量使用の一例となります。横穴式石室開口部東側の墳丘裾からは土師器甑(こしき)とともに馬骨が出土しています。馬骨は4~6歳馬(雄雌不明)の上・下顎臼歯で、頭部を切断して墳丘上に設置したと考えられています。馬と関わりが深いとされる大室古墳群における牛馬供犠の事例として注目されます。
以上、概観した本墳の特徴及び出土遺物からは、6世紀末から7世紀初頭に築造され、7世紀代に追葬が行われたと考えられます。直径が13m前後の円墳と墳丘規模は大きくありませんが、鉄革併用小札甲や馬具(鐙)など希少品の副葬、集落遺跡では出土がなく古墳専用品と考えられる土師器脚付長頸壺の使用や土師器高杯の多量使用、さらには墳丘上に切断した馬の頭部が設置されるなど、非常に多くの特徴を併せ持っている古墳時代後期後半の古墳として注目されます。
<文献>
佐々木憲一ほか 2014 『信濃大室積石塚古墳群の研究Ⅳ―大室谷支群・ムジナゴーロ単位支群の調査―』明治大学文学部考古学研究室 六一書房
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